『私が亡くなった後、この子にすべての手続きを任せるのは難しい』――限られた時間の中で作成した遺言書と死後事務委任契約
湯口行政書士事務所

「私が亡くなった後のことを、今のうちに決めておきたいんです」

ご相談をくださったのは、90代の女性でした。

女性には、障害のあるお子様がいらっしゃいます。

ご自身の体調にも不安を抱えておられ、

「私が亡くなった後、この子にいろいろな手続きをさせるのは難しいと思うんです」

とお話しくださいました。

相続のことだけではありません。

亡くなった後には、さまざまな手続きが発生します。

死亡届の提出をはじめ、葬儀や火葬、役所への届出、契約関係の整理など、その内容は多岐にわたります。

ご本人にとって一番の心配は、

「自分が亡くなった後、お子様が困ってしまうこと」

でした。


遺言・任意後見・死後事務委任を組み合わせて準備を進めることに

ご本人の判断能力はしっかりしており、ご自身の意思をきちんとお話しになることができました。

そこで、今後の状況も見据えながら、

・遺言
・任意後見契約
・死後事務委任契約

を組み合わせて準備を進めることになりました。

遺言によって、ご自身の財産についての意思を残す。

そして、将来判断能力が低下した場合には任意後見による支援につなげる。

さらに、亡くなった後に必要となる手続きを死後事務委任契約によって専門家に託しておく。

できる限りお子様の負担を少なくするため、一つひとつ準備を進めていました。


しかし、契約締結を目前にして突然の入院

ところが、手続きを進めている途中で状況が変わりました。

契約書類の作成も進み、あとは正式な手続きを行う段階というところで、ご本人が入院されることになったのです。

ご高齢で、がんの末期でもあることから、これまで予定していた形で、すべての契約を締結することは時間的にも難しい状況になりました。

「できることを、今できるうちに進めなければならない。」

そう考え、改めてご本人の状況とお気持ちを確認しました。


すべてを予定どおりに進めるのではなく、「今できること」を優先

今回、最終的に作成することになったのは、

自筆証書遺言
死後事務委任契約

でした。

本来予定していた任意後見契約については、締結まで進めることができませんでした。

しかし、だからといって何もしないまま時間を過ごすのではなく、

今の状況で、ご本人の意思をできる限り確実な形に残すにはどうすればよいか

を考えました。

その結果、遺言書によって財産についての意思を残し、死後事務については専門家へ委任するという方法を選択しました。


「自筆証書遺言」だからこそ、今の状況に対応できた

自筆証書遺言は、遺言者ご本人が法律上の要件に従って作成する遺言書です。

今回のように、入院によって当初予定していた方法での手続きが難しくなった場合でも、ご本人の意思能力や体調などを確認しながら、その時点で可能な方法を検討することができます。

もちろん、自筆証書遺言には守らなければならない形式があります。

内容だけではなく、作成方法を誤ると、せっかく残した遺言書が問題になる可能性もあります。

そのため、ご本人の意思を丁寧に確認しながら、必要な内容を整理していきました。


死後の手続きは、遺言書だけでは対応できないことがあります

遺言書を作成すれば、すべてのことが解決するわけではありません。

例えば、亡くなった後には、

・葬儀や火葬に関する手配
・各種契約の整理
・役所などへの届出
・関係機関への連絡

など、財産の相続とは別の手続きも必要になります。

こうした「亡くなった後の事務」をあらかじめ専門家に託しておくために利用できるものの一つが、死後事務委任契約です。

今回も、お子様にすべてを任せるのではなく、専門家が対応できる部分はあらかじめ引き受けることで、お子様の負担を少しでも減らせるよう準備しました。


任意後見契約を締結できなかったことで生じる課題もある

一方で、今回のように任意後見契約まで締結できなかったことによる課題もあります。

任意後見受任者としての立場があれば、契約内容に基づいてご本人の支援を行い、亡くなられた際にも状況に応じた対応を進めることができます。

しかし、任意後見契約を締結できなかった場合、専門家が当然にご本人の死亡に関するすべての手続きを行えるわけではありません。

例えば、死亡届の提出についても、誰が対応するのかを現実的に考える必要があります。

今回は、お子様について、死亡届の提出など一定の手続きを行う能力はあると判断しました。

そのため、

「お子様にできることはお願いし、専門家が対応すべきことは専門家が担う」

という役割分担を考えることになりました。


「すべてを代わりにやる」ことだけが支援ではない

障害のあるお子様がいらっしゃる場合、

「本人には何もできないのではないか」

と考えてしまうご家族もいらっしゃいます。

しかし、実際には、できることと難しいことは、お一人おひとり異なります。

今回も、お子様がすべての手続きを一人で行うことは難しい一方で、死亡届の提出など、一定の手続きについては対応できると考えられました。

だからこそ、

すべてを専門家に任せるのではなく、お子様自身にできることも大切にしながら、難しい部分を専門家が支える。

そのバランスを考えることも、今回の大切な支援の一つでした。


「もっと早く準備しておけば」とならないために

今回のご相談では、当初から将来を見据えた準備を進めていました。

しかし、人生では、予定どおりに進められないこともあります。

元気だった方が突然入院することもあります。

手続きを考えている間に、体調が大きく変化することもあります。

だからこそ、

「まだ大丈夫だから、もう少し先でいい」

ではなく、判断能力がしっかりしているうちに準備を始めることが大切です。

すべてを一度に決める必要はありません。

まずは、

「自分が亡くなった後、誰が困るのか」
「どんな手続きが必要になるのか」
「自分にできる準備は何か」

を整理することから始めることができます。


同じようなお悩みをお持ちの方へ

○障害のある子どもの将来が心配
○自分が亡くなった後の手続きを子どもに任せられるか不安
○遺言書を作っておきたい
○死後の手続きを誰かに任せたい
○任意後見や死後事務委任について相談したい
○病気や高齢のため、時間が限られていると感じている

そのようなお悩みをお持ちでしたら、早めにご相談ください。

今回のように、当初予定していたすべての準備を進めることが難しくなった場合でも、その時点の状況に合わせて、できる限りの方法を一緒に考えることはできます。

当事務所では、制度を一律にご提案するのではなく、

「今、この方に何が必要なのか」
「今の状況で、何ができるのか」

を丁寧に考えながら、ご本人とご家族の将来に寄り添ったお手伝いをしています。

限られた時間の中でも、ご本人の想いを形にするために。

一つひとつの状況に向き合いながら、できる限りの準備を一緒に考えていきます。

(2026年8月21日)



最新記事です。

045-563-2310045-563-2310

営業時間:平日10:00~18:00
(時間外・土日祝日は要相談)